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思考志向 - シコウシコウ

【第2章】「なぜ生きるのか」から「いかに生きるか」へ。パラダイムシフトを再考する必要性

受け入れがたい困難たちは、私たちの生涯のなかで何度もやってくる。大きな挫折、喪失、病。どんなに手を尽くしても、無かったことにはできない困難たちに、何度も遭遇する。

そんな、闇のなかに倒れ込むような「痛み」の経験をしたとき、人は、すっかり変容してしまった生涯のストーリーに想いをめぐらせる。そしてこれからの「人生の意味」ーー「なぜ生きるのか」という問いに直面することがある。

問いの根底には、「この先の将来に、いったいどんなことが期待できるだろうか」という絶望感が蔓延している。だから、なおさら答えを出すことは難しい。

それでも、いずれ時間が、すべてを受け入れさせる。長い年月がかかったとしても、望まずとも、人は動かしがたい事実を受け入れていく。

その間、私たちのなかでは何が起こっているのだろうか。
「なぜ生きるのか」という問いに対して、私たちはどう振る舞うべきなのだろうか。

「なぜ生きるのか」の答えには「自分を信じる」が含まれる

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生きる意味、すなわち「なぜ生きるのか」という問いは、「何を信じて生きるのか」という問いに似ている。

「なぜ生きるのか」。家族のために生きている、という人もいる。ほかの誰かのために身を捧げられるという心境は、それに「生きがい」を見出せている美しい例だと思う。

しかしその対象は、ある日突然、手の届かない場所に逝ってしまうことがある。唐突に世界が一変する。そのとき痛切に、「生きがい」と「生きる意味」の違いを思い知ることになるのだ。

「何を信じて生きるのか」。答えをたくさん挙げられるほど、その人生は豊かなものと言えるのかもしれない。ただし、答えの一番目に並ぶものはなにかとつき詰めれば、それは「自身の内に見出すなにか」。自分自身に至るように思う。

自分を信じられなければ、他者を心から信じることはできない。心から信じてもらえることも難しいのではないだろうか。

人間は独りでは生きられない。独りで生きているように錯覚することはあっても実際にはあり得ない。現代の私たちは必ずどこかで他者と繋がっている。他者との繋がりなくして自身の存在意義は見いだせない。当然「生きがい」も「生きる意味」も見いだせない。

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私たちはお互いに生かされている。心から信じあえることを本能的に欲している。つまり、自分を信じるべき理由がある。「なぜ生きるのか」という問いの答えの中には、「自分を信じられるようになるため」が、少なからず含まれているのだと思う。

無意識ながらも、「自身の内に見出したなにか」を、都度そのときの、一番の「信念」としているからこそ、生き続けられるのではないか。病に冒されても、家族を失っても、生き続けようと思える源泉は、そこにあるのではないだろうか。

人生の意味を知りつくすことはできない

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ではいったい、自分自身のなにを信じられるのか。これは生涯のなかで「生きがい」や「信念」、「強み」といった姿で都度変化していくように思われる。

特に、今後の人生が大きく変容するような激しい「痛み」を経験したとき、望まずとも変化させられるのだ。大きな挫折や病、大切なひとの喪失などを経験したとき、痛切に思い知る。

そのとき新たに生まれるものは、「また立ち上がり、歩きだそうと思えるきっかけ」ーー「少なくとも ”いまは” 信じられる、自身のなかに芽生えたなにか」。これが「信念」や「生きがい」と呼ばれるものの正体だろう。
常に一時的で不安定でありながらも、私たちが生きていくうえで必要不可欠なものだ。

一方で、一生を通して信じられるものを、私はまだ知らない。章を改めてその答えとなりうるものに触れるが、それさえ一時的な、 ”いまの私の信念” に過ぎないのだと思っている。だからまだ、私の「人生の意味」ーー「なぜ生きるのか」という問いにも、はっきりとは答えられない。

結局私たちは、自分の人生の ”本当の” 意味を知らないし、知りつくすことはできない。答えを知ろうと思索しても、「なんのためにこの世界は存在するのか」という問いにたどり着く。

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あるひとりの人間が生きる意味を知りつくそうとする行為は、世界の意味を知ろうとする行為に近しい。世界はどう在るのか、なぜ在るのかを考え、自らの人生に重ねているに過ぎない。これは遠い昔から何度も試みられてきた、哲学(形而上学けいじじょうがく)における根本的な思考の旅なのだ。

だから、たったいま、自らの人生の意味を断言することは不可能であり、答えを出そうと焦る必要もない。私たちが実感しえるのは、「世界も自分も確かにここに在る」ということ。つまり「実存している」ということだけだ。

どれほど努力してもあるものを手にいれることが不可能だと思えるとき、その次元における限界があらわになり、ゆえに次元を変える必要性、いわば天井をつき破る必要性が示される。

したがって、この次元で努力を使いはたすなら堕落する。限界を受けいれ、注視し、苦渋をあまさず味わいつくすほうがよい。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』-「不可能なもの」

この世界に生まれたものの、いつからか私たちは当たり前のように『限界を受け入れ』て生きている。世界の意味を知らないながらも、『その次元における限界』のなかで『苦渋を』『味わい』、懸命に生きようとしている。

ヴェイユは戦火のなかフランスより亡命し、祖国存亡の危機を横目に、工場労働に従事した。その中で垣間みた真理を、雑記帳(カイエ)に書き連ねていった。過労と焦燥により健康が蝕まれていきながらもペンを走らせた彼女の言葉の断片たちからは、残された時間が少ない人間の、魂と血肉の意志を感じる。弱りゆく身体から発された、真っ赤な熱を帯びた意志たち。

私たちは大きな困難にぶつかったとき、この先の将来に期待できるもの ーー 生きていく意味を考え出す。理由を欲する。だがその答えは出ないことを改めて、いつか ”実感として” 知っておかなければならない。

あるひとつの経験においても、ヴェイユの言うように、自身の限界を受けいれ、現状を注視し、苦渋に耐えた先にようやく、「この経験を何とするか」「いかに生きていくか」の光が見えてくるのだろう。

自身の存在意義を見出す ”可能性の源”

あまりの苦痛に世界が失われる段階がある。
その後、ふたたび世界をみいだすなら、安らぎがおとずれる。その後にまた激痛の発作に見舞われても、安らぎもまたおとずれる。

このことを知っているなら、苦痛の段階そのものが安らぎを予感させ、世界との接触を断たれずにすむ。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』-「宇宙の意味」

悲しみに心身が支配されたとき、私はいつもがむしゃらに書き出す。飽和している感情すべてを目の前にさらけ出して、それらを眺めるほかに、救われるすべが思い浮かばないのだ。

そのときはいつも、自身のなかのどこかにある、今後信じていこうと思えるなにか ーー 新たな「信念」や「生きがい」となりうるもの ーー を模索しているように思う。

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一方で、書き出して見えてきたものの中には必ず、自身の「無知」や「無力」がある。いつまでたっても、私には知らないことが多すぎる。できないことが多すぎる。それに気づき、呆れ、ときに愕然とすることで、これから歩いていくべき方角を定めてきたように思う。

マルセルが「旅人」(ホモ・ヴィアトール)の中で、ギュスターヴ・ティボンの次のような言葉を引用しています。

お前は自分を狭苦しく感じている。お前は脱出を夢みている。だが蜃気楼に気を付けるがよい。脱出するというのなら、走るな。逃げるな。むしろお前に与えられたこの狭小な土地を掘れ。お前は神と一切をそこに見出すだろう。

(中略)

虚栄は走る。愛は掘る。たとえお前がお前自身の外に逃げ出してもお前の牢獄はお前について走るだろう。その牢獄はお前が走る風のために一層狭まるだろう。だがもしお前がお前の中に留まって、お前自身を掘り下げるならば、お前の牢獄は天国へ突き抜けるだろう。

(中略)小林秀雄もドストエフスキーを、一所を守って動かず成熟していった魂であると見ています。私にはマルセルが、「旅ゆく者」を論じつつ一見その反対のように見える一所を守る精神を強調しているところが素晴しいと思われるのです。

越知保夫『新版 小林秀雄』-「書簡・その他」

批評家の越知保夫が、フランス文学者の木村太郎へ送った、ある日の書簡の一節。書簡内で引用されたティボンの言葉はフランス語であり、上記の途中までであったようだが、『新版 小林秀雄』-「小林秀雄論」で翻訳されているものを引用させていただいた。

書くことは私にとって、自身の現状を把握し、掘り下げることに繋がっていた。
書くことは自身の存在意義に向かい合うことができる行為であり、文字を覚えたすべての人間に与えられた ”可能性の源” なのだと、いまは思える。

執筆とは出産である。もう限界だと思える努力をせずにはいられない。だが行動もおなじだ。もう限界だと思える努力をしていないのではと危惧する必要はない。
自己に嘘をつかず、注意をこらしていればよい。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』-「注意と意志」

書き始めることさえままならないこともある。そんなときは、自身の心の機微を注視しておく必要がある。焦りを感じるほどに時間がかかることもあるが、どうやら焦らず待つことが、何より必要な場合もあるようだ。

心の振る舞いや、周囲の少しの動向が、状況を変えていくのをじっと待つしかないのだ。

「いまここで、自分に、なにができるか、なにをすべきか」

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深い悲しみに覆われたとき、「なぜ生きるのか」、自身に問いかけても精確な答えは出ない。事実を受け入れ、負った傷跡や心情と向き合う必要がある。無知と無力さを知り、進むべき方角を定め、歩きだす。その一連の中でこそ、新たな「生きがい」や「信念」を見つけられる。

人間はきっと、死ぬまで自分を信じきることはできない。だから他者を信じきることはできない。「信じる」とはそういうことだろう。「信頼」とはそういうものだろう。ただしその水準を高めることはできる。成長することはできる。すべては自己にゆだねられている。

痛みを経験するほど、たくさんの「生きがい」や「信念」に出会える。大きく成長できる。ただし、もう一度立ち上がろうと思えるまでの時間は残酷なものだ。

画家の小野元衛もとえは、最愛の弟を病で失った。それは、自身も病に苦しみながらも絵を仕事に生き抜こうと暗中模索するなか、半身を失ったような悲痛の極みであったという。

人は死ぬ、私もやがて死ぬ、人間の生命いのちのもろさ、哀しさを思う。しのぐちゃんはもうこの世にいないのだ。動かすことのできぬ現実は、こんなにもいたましいものに人間をひきずりこむものかと思う。

(中略)

耐えるのだ、元衛よ、この大きな悲しみをお前はじっと歯を喰いしばって耐えるのだ。大きな不幸に見舞われた私たちは、本当に心を尽くして生きて行かねばならぬ。

志村ふくみ『一色一生』-「兄のこと」

歯を喰いしばって耐える時間。残酷なものであるからこそ、その繰り返しの中で人は、「なぜ生きるのか」ではなく、「いかに生きるか」を考え出すのではないだろうか。

「この先の将来に、いったいどんなことが期待できるだろうか」ではなく、「いまここで、自分に、なにができるか、なにをすべきか」を、都度見出していく必要性が示されているのだ。

【第3章】私たちが本当にほしいもの

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